調査ノート / AI活用
AIに日本語を書かせるとき何を伝え、どう確認するか
結論は、プロンプトだけに頼らないことです。生成前に目的や読者を伝え、繰り返し使う表記基準や用語集を用意し、生成後に事実と読み味を確認します。作業を分けると、問題が起きた場所に応じて直し方を選べます。
本稿は記事・技術文書と、マイクロコピー(ボタンやエラーメッセージなど、UI上の短い文言)を対象にします。公式文書、OSSのREADME、個人の実践報告を同じ確度で混ぜず、それぞれの根拠区分を示します。
表記や文長のように規則へ落とせる部分には、textlint(文章をルールごとに検査するツール)が使えます。一方、主張の強さ、経験の真偽、文章のリズムは、人の判断を残す領域です。
公開・調査:2026年7月26日 ・ 読了目安:13分
この記事で参照した主な資料
AIへの伝え方、日本語表記、生成後の確認方法について、次の資料を参照しました。ここでは代表的な資料を示し、完全な一覧は記事末尾に掲載します。
| 種類 | 主な資料 | 確認したこと |
|---|---|---|
| AI各社の公式ガイド | OpenAI・Anthropic・Google | 読者、目的、文体、出力形式、作例をAIへ伝える方法 |
| 日本語表記の指針 | 文化庁「公用文作成の考え方」・JTF日本語標準スタイルガイド | 用語、表記、文体をそろえる際の基準 |
| 文章校正ツール | textlint・textlint-rule-prh・AI生成文向けルール | 表記ゆれ、冗長表現、AI生成文に出やすいパターンの検出方法 |
| 公開されている文章ガイド | SmartHR・Science Tokyo | UI文言やWeb文章を組織でそろえる方法 |
| AIを使った執筆事例 | watany・Coji Mizoguchi・uhyo | AIで書く際に起きた問題と、人による確認を含む運用例 |
早見表 — 崩れやすい7点をどう抑えるか
以下では、これらの資料から確認できた方法をもとに、AIで日本語を書くときに崩れやすい点と対策を整理します。
この表は、各資料にそのまま掲載されている手順ではありません。複数の資料で紹介されている方法を比較し、実際の執筆手順に合わせてまとめたものです。個別の機能や事例は、後続の節で出典とともに紹介します。
| 崩れやすい点 | AIへ伝えること | 繰り返し使うルール・資料 | 生成後に確認すること | 主な根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 表記ゆれ | 用語、文字種、句読点、許容表記を明示する。 | 表記基準と用語辞書(公用文、JTF、prh) | textlintとprhで候補を検出し、媒体固有の例外は人が判断する。 | 文化庁・JTF・prh READMEをもとに編集整理 |
| 文体の不統一 | 対象読者、役割、敬体・常体、望む作例を示す。 | 文体ガイドとレビュー手順(過去の作例、公開Skill) | 節をまたいで語尾、視点、説明粒度を比較し、必要なら音読する。 | 公式ガイド・公開Skill・個人事例をもとに編集整理 |
| 冗長さ | 文数、文字数、出力項目を測定できる条件で指定する。 | 文章lintのルール(技術文書・AI生成文向けプリセット) | 長文と冗長表現をlintで拾い、短文化で意味やリズムが壊れていないか読む。 | 公式ガイド・プリセットREADME・個人事例をもとに編集整理 |
| 語彙選択 | 読者の知識、専門語の定義、使用語と不使用語を示す。 | 用語辞書と表記ルール(prh、過去の作例) | 固有名詞と専門語を一次情報に照合し、抽象語を条件や作業名に置き換えられるか見る。 | 公式ガイド・prh README・個人事例をもとに編集整理 |
| 事実性 | 参照範囲を限定し、不明な事実や経験を補完させない。 | 出典台帳、事実確認チェックリスト | URL、固有名詞、時系列、数値、本人の経験を一次情報または本人が確認する。 | 公式ガイド・個人事例をもとに編集整理 |
| トーンと文字数 | 利用場面、ブランドトーン、断定の強さ、文字数を具体化する。 | プロダクトのライティングガイド、UI文言レビュー観点 | 実画面で文字数、次の行動、エラーから回復できるかを確認し、少数案を比較する。 | 公開ガイド・個人事例をもとに編集整理 |
| AIらしい定型表現 | 禁止語だけでなく、望む判断、構造、作例を示す。 | 文章lintとレビュー手順(AI writing preset、公開Skill) | 均一なリズム、過剰な構造宣言、弱い判断、作られた経験を見て、自動修正後も再読する。 | プリセットREADME・公開Skill・個人事例をもとに編集整理 |
生成前にAIへ伝えること
読者、目的、利用場面を先に固定する
OpenAIのPrompt engineering、AnthropicのPrompting best practices、GoogleのClear instructionsは、目的や文脈、制約、出力形式を具体化する観点をそれぞれ案内しています。たとえば記事を書くなら、「新入社員向け」「専門語は初出で説明する」「です・ます調で書く」のように、想定読者と文章の条件をプロンプトへ書きます。
曖昧な注文を、確認できる条件へ変える
たとえば、AIに「短く」「自然に」と伝えるだけでは、完成条件を共有できません。「見出しは20字以内」「本文は3文」「です・ます調で統一する」「専門語は初出で説明する」のように、結果を確認できる条件へ言い換えます。また、UI文言を作る場合は、表示箇所、読んだ人に次に取ってほしい行動、失敗した状態から戻る方法も伝えます。
作例を見せて、出力の型を伝える
作例を使って出力の型を伝える方法として、OpenAIはfew-shot learningを紹介しています。few-shotとは、望む入力と出力の組をプロンプトに数件入れ、新しい入力にも同じパターンを適用させる方法です。OpenAIのPrompt engineeringを踏まえ、ここでは日本語のUI文言を例にします。
この記事で作った例
入力例:パスワード再設定メールが届かない
望む出力例:パスワード再設定メールが届いていません。迷惑メールフォルダを確認し、見つからない場合はメールを再送してください。
新しい入力:カードが承認されなかった
同じ型の出力:カードが承認されませんでした。カード情報を確認するか、別の支払い方法を選んでください。
このように、「状況を説明した後に次の行動を示す」「です・ます調で2文に収める」といった出力の型を、別の入力にも適用できます。
作例の目的は、文章を丸ごとまねさせることではありません。望む構成や説明の細かさを、完成形で見せることです。出典にない事実や、本人が経験していない出来事を補わない条件も別に明記します。
繰り返し使うルールと資料
機械で確認できるルールと、人が読む観点を分ける
textlintの公式サイトでは、ルールとプリセットを組み合わせてMarkdownやプレーンテキストを検査できると説明しています。textlint-rule-prhは、製品名や送り仮名を辞書でそろえます。このように、表記がルールと一致しているかどうかは、機械で確認できます。
一方、論証の分かりやすさ、読者の負担、文章のリズム、翻訳調といった点は、単純な一致・不一致では判断できません。こうした観点をまとめ、AIに繰り返し参照させる文書の一例がSkillです。
公開例には、japanese-tech-writingやnatural-japaneseがあります。これらは文章の完成を自動で判定するものではなく、レビュー時の見落としを減らすために使います。
AI生成文向けプリセットの役割
@textlint-ja/textlint-rule-preset-ai-writingのREADMEでは、機械的な箇条書き、誇張、過剰な強調などを検出対象として挙げ、AIが書いたかどうかを判定するものではないと説明しています。
この記事では、検出箇所を一律に削除するのではなく、文章の構造や主張を見直す手掛かりとして扱います。
繰り返す条件を、使い回せる形で残す
毎回同じ条件をプロンプトへ書かずに済むよう、まずは表記基準やレビュー項目を短い文書にまとめます。たとえば、文体や専門語の扱いはスタイルガイドに、製品名の正しい表記は用語集に残します。
表記ゆれや文長など、機械で見つけやすい問題には既存のtextlintルールを利用できます。同じ修正が繰り返され、既存のルールでは確認できない場合に限って、用語辞書への追加や独自ルールの作成を検討します。
例:パスワード再設定画面の文言を書く場合
- スタイルガイド:「です・ます調」「状況を説明してから次の行動を示す」「2文以内」
- textlint-rule-sentence-length:設定した文字数を超える文を検出する
- textlint-rule-no-mix-dearu-desumasu:です・ます調と、である調の混在を検出する
- textlint-rule-prh:「リセットメール」を「再設定メール」へ統一する辞書を登録する
- 人によるレビュー:次の行動と、メールが届かない場合の戻り方を確認する
textlint-rule-sentence-lengthとtextlint-rule-no-mix-dearu-desumasuは、既存のルールを設定して使います。一方、textlint-rule-prhで使う表記の対応表は、自分たちで用意します。
生成後に確認すること
機械で見つけやすいもの
- 用語、製品名、文字種の不一致
- 文長、冗長表現、敬体と常体の混在
- 箇条書きや強調の過剰な反復
- UI文字数など数値で表せる制約
人が引き受けるもの
- 固有名詞、数値、URL、時系列の事実確認
- 主張と根拠が釣り合っているか
- 経験や判断が本人のものか
- 音読したときのリズムと、媒体らしい声
流暢さは事実性の証拠にならず、lintの合格も完成の証拠にはなりません。検査の目的ごとに、渡す文脈と担当を変えます。
文脈を持たない通読役を入れる
公開記事や重要な文書など、複数の観点から確認する必要がある場合は、レビューを機械検査、事実確認、観点付き読者レビュー、純粋な初見通読の4レーンに分けます。一度きりの短い文章では、必要な確認だけを選びます。各レーンには、必要な情報だけを渡し、他レーンの結果を共有しません。
AIでレビューする場合は、レーンごとに新しいサブエージェントや別のチャットを使い、必要な資料だけを渡します。会話履歴や他レーンの結果を引き継がせないことで、それぞれの観点を混ぜずに確認しやすくなります。
- 機械検査:lint、契約テスト(見出しや必須項目など、記事の構造を固定するテスト)、リンク確認で、表記、構造、メタデータを検査する。
- 事実確認:本文と出典だけを渡し、固有名詞、数値、URL、時系列、経験の帰属を照合する。
- 観点付き読者レビュー:本文、想定読者、記事の目的、レビュー項目だけを渡し、説明不足や判断材料の欠落を探す。
- 純粋な初見通読:本文だけを渡し、誰向けの記事に見えたか、どこで止まったか、何が残らなかったかを返してもらう。
4レーンの結果を受け取った後は、執筆者が指摘の採否を決め、最後に人が全体を読みます。
事実確認役と通読役を兼任させると、根拠を知っているために本文の説明不足を補って読むことがあります。観点付きレビューと本文だけの通読も分けると、チェック項目に沿った不足と、実際に読みながら止まる箇所を別々に見つけられます。
一つの修正を、次にも使えるルールへ変える
たとえば、決済に失敗した画面へ「エラーが発生しました。しばらくしてから再度お試しください」とだけ表示されたとします。文としては成立していますが、次に何をすればよいか判断できません。
- AIへ伝えること:「決済画面」「カードが承認されなかった」「別のカードを選べる」「本文は2文まで」と、場面・原因・次の行動・長さを渡します。
- 繰り返し使うルール:「エラーでは、起きたことと回復方法を書く」というUI文言ガイドと、「カード」「支払い方法」の表記を用語辞書へ置きます。
- 生成後の確認:文字数と表記は機械で確認し、実画面で「カードを確認するか、別の支払い方法を選んでください」と読んだ人が迷わず戻れるかを人が確かめます。
指示だけで直せるのは今回の一文です。同じ種類のエラーを繰り返し作るなら、採用した判断をガイドと辞書へ移します。機械検査は完成文を選ばず、決めた条件から外れた候補を見つけます。
用途別 — 記事とUI文言で変わるところ
AIへ伝える条件や生成後の確認方法は、用途によって変わります。SmartHR Design SystemのライティングガイドはUIテキスト、エラー、ヘルプ、用字用語の基準を公開しています。Ubieのはたけ氏も「[実践篇] 上司を AI 化して、フィードバックのスピードと質を両取りする方法」で、UXライティングの判断をガイドとしてチームへ共有しています。
| 用途 | AIへ伝えること | ルール・資料 | 機械で確認 | 人が確認 | 完了条件 |
|---|---|---|---|---|---|
| 記事・技術文書 | 読者、問い、主張、扱う一次情報 | スタイルガイド、用語辞書、出典台帳 | 表記、文長、リンク、構造 | 論旨、帰属、再現手順、読み味 | 根拠から結論を追え、読者が次の判断を下せる |
| UI文言 | 利用場面、次の行動、トーン、文字数 | UI文言ガイド、用語辞書、画面パターン | 文字数、表記、必須語、禁止語 | 実画面での理解、行動、エラーからの回復 | 画面の状態を理解し、迷わず次の操作へ進める |
コミュニティの声
以下は、AIを使って執筆した人たちの実践報告です。各投稿者がどこでつまずき、どのように対処したかを紹介します。
大量の作例を使っても、骨格は人が握る
watany氏の「AIエージェントがあれば技術書なんてすぐ書けるでしょ、と思ったが無理だった」では、約200件の自作記事・登壇資料を参照させても、文体模倣は語彙へ寄り、骨格と面白さは戻らなかったと報告しています。Coji Mizoguchi氏の「AI臭は語彙よりリズムに出る - 自然な日本語を書くAgent Skillと7モデル×406本の実測」では、人間137本とAI406本を比べ、禁止語より文長リズムと段落の均質さに差が出たと分析しました。
量産と品質保証は別の仕事
ゴリス氏の「生成AIに技術記事を100本まるごと書かせてみて考えたこと」では、速度と網羅性の一方で、事実誤認、未経験の失敗談、記事の同質化が報告されました。uhyo氏の「AIに技術記事を書かせる:9回の反復で到達した「完璧すぎる」という逆説」でも、定量評価だけでは読み味を保証できなかったとしています。
最小構成の選び方
最初から大きな仕組みを作る必要はありません。今回の出力だけに必要な条件はプロンプトで伝え、同じ修正が繰り返されたらスタイルガイドや用語辞書へ加えます。生成後に何を確認するかは、公開後に起きると困ることから決めます。
一度きりの短い文章
読者、目的、長さ、出力形式を指示し、事実と読み味を人が確認します。同じ修正がまだ再発しないなら、専用のSkillやlintは増やしません。
繰り返し作る記事・技術文書
スタイルガイド、用語辞書、出典台帳を共有し、表記と構造をlintで検査します。事実確認と初見通読は別工程にし、執筆者が採否を決めます。
実画面へ載せるUI文言
UI文言ガイドと用語辞書を共有し、文字数と表記を機械で確認します。最後は実際の画面で、状態を理解できるか、次の行動と戻り方が分かるかを確かめます。
迷ったら、まず一つの文章で「条件を伝える→生成する→確認する」を試します。同じ修正理由が繰り返し現れたらスタイルガイドや用語辞書へ加え、機械で判定できる条件だけlintへ渡します。この順なら、プロンプトもレビュー手順も必要以上に膨らみません。
参考資料
公式の一般的な指示方法、OSSの実装・README、個人の実践記録を分けて掲載します。リンクと内容は2026年7月26日に確認しました。